コラム

市場浸透戦略を用いた市場シェア拡大の方法とは。アンゾフの成長マトリクスの事例を交えて紹介

マーケットシェア拡大

市場シェア(マーケットシェア)拡大のためには「アンゾフの成長マトリクス」などのフレームワークを活用することがおすすめです。
フレームワークとは順序に沿って思考を整理することのできる思考の枠組みのようなもので分析方法のガイドラインや分析の指針となってくれます。

「市場シェア拡大を目指そう」となった際に、多くの会社が最初に始めることが分析や戦略立てでしょう。
なんの方針もないまま行うと非効率な上に、市場シェアの拡大失敗ということにもなりかねません。

そこで鍵となるのがフレームワークなのです。

このコラムではアンゾフの成長マトリクスが示す4象限のうち「市場浸透戦略」に焦点を当て解説しています。
大企業が市場浸透戦略の視点から立てた実際の戦略も紹介していますので、戦略立ての参考にぜひご覧ください。

中小企業119
中小企業119

マーケット(市場)シェアとは?

自分たちが提供している商品やサービスの売上が特定市場で占めている割合のことを「マーケット(市場)シェア」といいます。
「市場占有率」とも呼ばれます。

実際のマーケットシェアとクープマン目標値(※)を参照することで、自社や競合他社が市場でどのような立ち位置にいるかを把握することができます。
新規事業への参入や新商品の開発、既存サービスの見直しなどを行う際に活用するデータです。

マーケットシェアには絶対的市場シェア率と、相対的市場シェア率の2つがあります。

※:マーケットシェアにおける目標値。対象市場における企業や製品・商品の位置づけ(ポジショニング)

絶対的市場シェア率

絶対的市場シェア率とは、自社商品やサービスが市場の売上に対してどれくらいの割合を占めているのかを示します。

ここで設定できる市場はさまざまです。「衣服」や「食料品」などのような大きな市場で考えることはもちろん、その中の「お茶」「烏龍茶」といったように市場規模を絞って調べることもできます。

ペルソナに合わせて年齢層や地域などを限定した売上から絶対的市場シェア率を算出することも可能です。

計算方法は

(自社の商品・サービスの売上 ÷ 市場全体の売上)× 100

で算出できます。

例えば、ある市場全体の総売上高が2,000万円で、そのうち自社の売上が500万円である場合、

500万 ÷ 2,000万 × 100=25%

つまり、自社のその市場におけるマーケットシェアは25%ということになります。

相対的市場シェア率

相対的市場シェア率とは、競合他社のシェア率を対象に算出された数値です。
自社の商品やサービスとの比較を行う際に活用できます。

相対的市場シェア率は、特定市場においてシェア率1位の企業と自社を比較する際に多く使用されます。

計算方法は

自社の商品・サービスの絶対的市場シェア率 ÷ 競合他社の商品・サービスの絶対的市場シェア率

で算出できます。

例えば自社のA商品における絶対的市場シェア率が12%、B商品(シェア1位)の絶対的市場シェア率が60%である場合、A商品の相対的市場シェア率は20%になります。

マーケット(市場)シェアが高い場合のメリット

マーケットシェア(市場占有率)が高いと、市場や社会に対する大きな影響力を保有できるようになり、そのブランドに対する高い信頼性を確保することが可能です。

高い信頼性が与える影響は消費者だけでなく、取引先や就職希望者に対しても効果を発揮します。

マーケットシェアの高さはそのまま顧客の多さに直結します。
そのため事業者と顧客の結びつきを強める機会も多くあり、より大きなマーケティング効果が期待できるでしょう。

市場の規模によっては生産や販売コストの低減など、経済面でのメリットも大きく見込めます。

マーケットシェアの高さはさまざまな場面で優位に働くため、多くの企業が市場占有率を高めようとあらゆる施策を行っているのです。

マーケットシェアを理解する上での注意点

市場は外的要因による変動が激しいため、マーケットシェアの代償も一過性のものや季節的なものなど、時間の経過によって変わることがある点は注意しましょう。

マーケットシェアは将来性を予測することには向かず、その数値は将来的な安心材料にはなりません。

マーケットシェアの数値はあくまでもその時点における自社の市場内での立ち位置を把握するものと認識しておくと良いです。

企業におけるシェア拡大や市場拡大とは?

企業の成長において市場やマーケットシェアの拡大はとても重要な要素です。

シェア拡大はマーケットシェア(市場占有率)を拡大すること。
市場拡大はその言葉のとおり、市場そのものを拡大することです。

2つは似ている言葉ですが、少し意味合いが異なります。
それぞれ詳しく解説します。

シェア拡大

対象市場で自社のマーケットシェアを拡大することを「シェア拡大(市場シェア拡大)」といいます。

自社のシェア拡大を行う意図として、自社収益率の最大化を狙うことが挙げられます。

シェアが拡大されるほど、その市場において価格のコントロールがしやすくなるためです。

先述のお話とつながりますが、マーケットシェアを拡大することで自社に優位な条件で取引が締結しやすくなるとされています。
ブランドの信頼性向上にもつながるため、顧客や就職希望者が自然と集まりやすいというメリットもあります。

シェア拡大によるメリットはとても大きなものですが、市場を独占することは「独占禁止法」で禁止されています。

ある企業が市場を独占してしまうと、その企業の利潤が多くなるように一方的に価格を決定すること(独占価格)があり、価格が高騰してしまうことがあるためです。

市場拡大

市場拡大は自社の商品やサービスを利用してくれる顧客数を増やし、ビジネスを行う市場を拡張していくことです。

市場の定義は多様的なもので、大きく分類されることもあればペルソナなどに合わせてより細かく定義することも可能です。

市場のシェア拡大をする意味として、シェアを拡大するほど価格のコントロールがしやすくなり、自社収益率の最大化を狙うことができることが挙げられます。

シェア拡大はあくまでも市場内での売上拡大です。
一方の市場拡大はビジネス市場そのものの拡張であるため、シェア拡大とは桁違いの売上向上が見込める可能性があります。

他市場からの顧客獲得により注目度や期待値が高まり、ビジネスの領域が広がることも想定されるでしょう。

市場拡大にはさまざまなパターンが考えられます。

「自社の既存商品やサービスを既存の市場で拡大していく」のか「自社の既存商品やサービスを新しい市場で開拓していく」のかなど、企業によって戦略が分かれるところです。

シェア拡大と市場拡大の違い

シェア拡大は競合他社のお客様の獲得でもシェア拡大は可能ですが、市場拡大は競合他社の顧客誘引だけでなくその市場を利用する顧客も増やす必要が生まれます。

既存の市場拡大に有効な市場浸透戦略とは?

既存市場に既存の製品をより浸透させていく戦略を「市場浸透戦略」といいます。

自社が現在商品やサービスを展開している市場をそのまま拡大するのであれば「市場浸透戦略」が有効的です。

市場浸透戦略の大きな特徴として、市場そのものの成長率が低い場合でも、既存製品の認知度や利用率を高めることで成長を促すことができる点が挙げられます。
既存製品の販売促進によって顧客の購買頻度や購買量を増やすことも可能です。

市場浸透戦略は「アンゾフの成長マトリクス」と呼ばれるフレームワークに属するうちの一つです。

アンゾフの成長マトリクスとは?

アンゾフの成長マトリクスは、製品・市場の観点から分析するフレームワークのこと。
縦軸に「製品」と横軸に「市場」を置き、それぞれの軸に「既存」「新規」の2区分を設けることで、企業の成長戦略を

新規市場×新規製品
既存市場×新規製品
既存市場×既存製品
新規市場×既存製品

の4象限に分類し、それぞれのリスクと可能性を提示しています。

このうち「既存市場×既存製品」に値するのが先述の「市場浸透戦略」です。

関連記事:シェア拡大で売上アップ!戦略設計に必要なフレームワークを紹介

市場浸透戦略の基本的な戦略とは

市場浸透戦略は売り方を変える手法といえます。

市場を開拓したり、新製品を開発するコストを抑えることが可能です。

既存の市場において自社の認知度がそもそも低い場合は、PRに力を入れて初回購入数を増やすことが考えられるでしょう。
一定の認知度を確保することができた後は、リピート率を高める取り組みに注力するのが良いです。

具体的な方法として、従来の宣伝方法をSNSでの宣伝方法に変更してみたり、商品の割引キャンペーンを行ったりすることが挙げられます。

市場浸透戦略のメリット

既存製品を今までと同じ市場へ売り出すことには、自社製品やサービスの新たな価値を見いだすことにつながるという点において大きなメリットがあります。

今まで深掘りされることのなかった価値を顧客へ提供することで得られるメリットは下記の3つです。

  • 顧客離反を防げる
  • 客単価アップが期待できる
  • 需要増が見込める

顧客離反を防げる

市場戦略により売り方を変え、商品やサービスの価値に気づいてもらうことで利用頻度を高めることが期待できます。

商品・サービスに対して、自身の需要とマッチした価値を感じた顧客は、長期間その商品・サービスを利用してくれる傾向にあるため、顧客離反の阻止やリピーターの確保につながるでしょう。

客単価アップが期待できる

リピーターが増え、購入頻度が高まることで顧客単価が向上します。
キャンペーンやセット商品を作ることであわせ買いやついで買いを促すことでさらなる顧客単価の向上が期待できます。

需要増が見込める

商品・サービスに新たな価値を見いだすことで、その価値を求める新規ユーザーへリーチを広げることができます。

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市場浸透戦略の企業事例

すでに提供している商品・サービスの売り方を変える戦略がこの市場浸透戦略ですが、実際にどのような会社が何を行っているのでしょうか。

この章では、市場浸透戦略を参考に実際行われた事例をいくつか紹介します。

外食産業

とある企業では平日限定でランチメニューの価格を安く設定しました。

この企業では需要の高い時間帯が夜に限られており、平日ランチタイムの需要が低いことがネックでした。

そこで、今まで訴求してこなかった価格面をアピール。
売り方を変えることで弱みであった昼間・一人客という新規層の獲得と、ついで買いや夜時間のリピート客の増加を実現したのです。

清涼飲料業界

ラベルのデザインを変更することで売上を伸ばすことに成功した事例もあります。

季節感を出した特殊なラベルを使用することで、この時期の需要を増やすことに成功したのです。

また、最近では環境に配慮した「ラベルレスボトル」も話題になっています。
ペットボトルを捨てる際にユーザーがラベルを剥がす手間がなくなり、ラベルレスボトルが発売された2018年から順調に売上が伸びている状態です。

市場浸透戦略以外のアンゾフの成長マトリクス

今回はアンゾフの成長マトリクスのうち、市場浸透戦略を取り上げて説明しました。
成長マトリクスにはあと3つの象限があります。

既存市場×新規製品
新規市場×既存製品
新規市場×新規製品

マーケットシェア拡大を実現したいのであれば、市場浸透戦略だけに目を向ければいいというわけではありません。

この章では成長マトリクスの残りの象限を紹介しています。

新製品開発【既存市場×新規製品】

既存市場に新しい製品・サービスを投入する戦略で「新製品開発戦略」とも呼ばれています。

市場と顧客の理解は深まっているため、既存商品・サービスでは満足できなかったニーズに合わせた新商品・新サービスの提供がしやすい特徴があります。

そのため、比較的リスクが小さい戦略といえるでしょう。

新市場開拓【新規市場×既存製品】

既存製品をこれまでと異なる市場に売り出す戦略で「新市場開拓戦略」と呼ばれることもあります。

企業の事業展開を拡大し、新たな顧客層を獲得することにつながります。
新製品を開発するコストが比較的少なくて済む上に、販路を拡大するだけであればリスクも少ない戦略といえるでしょう。

たとえば、今まで女性向けの商品・サービスを提供していた企業が男性向けのサービスを提供するようになったり、国内市場から海外市場へ進出することも「新市場開拓戦略」にあてはまります。

ただし、リスクが少ないとはいえ新規市場の顧客が既存市場とは大きく異なる価値観などを持っていた場合、新規市場への適応は少し難しいかもしれません。

多角化【新規市場×新規製品】

新しい市場に新しい製品・サービスを投入する戦略で、企業の大きな成長や技術力向上が見込めます。

「多角化戦略」とも呼ばれており、下記4種類の分類があります。

  • 水平型多角化:既存市場と隣接した市場×既存技術を活かした新製品
  • 垂直型多角化:既存市場の川上・川下の市場×既存技術を活かした新製品
  • 集中型多角化:これまでとまったく違う新規市場×既存技術を活かした新製品
  • 集成型多角化:これまでとまったく違う新規市場×既存技術と関連のない新製品

新規市場への挑戦や新製品の開発によってさまざまな面での成長が見込めますが、一方で多額の投資と時間が必要です。
新規市場の調査やマーケティング活動などを行うことも視野に入れると、かなりコストがかかることが想定されます。

新規市場への進出が既存市場へ影響を及ぼす可能性も考えられるでしょう。

そのため、一般的にリスクが高い戦略とされています。

新規市場進出や新製品開発による恩恵もありますが、大きなリスクも伴う戦略が「新規市場×新規製品投入(多角化戦略)」です。

アンゾフの成長マトリクスを市場拡大に生かすポイント

アンゾフの成長マトリクスが市場拡大に適しているからといって、闇雲に自社を当てはめるわけにはいきません。

この章では成長マトリクスを市場拡大により効果的に生かすためのポイントを紹介しています。

市場の変化を見極める

具体的かつ効率的な成長戦略を策定するため、最初に市場の調査・分析を行うことがおすすめです。

「既存市場にこれ以上の伸び代があるか」「どの分野や市場が今後伸びそうか」など、トレンドや情勢などを加味した上で分析を行うことで合理的な成長戦略の設定が可能になります。

長期的な視点に立ち収支計画を策定する

長期的な収支計画を策定し、まとまった運転資金を確保するように心がけると良いでしょう。

実際に策定した成長戦略を実行したとして、最初の2〜3年は計画通りに進まないものと考えておいた方が良いです。

外的要因または内的要因による業績低迷期の発生などを可能性に入れた上で計画を立てましょう。

市場浸透戦略が向いているかどうかは企業次第

今回紹介した市場浸透戦略が、あらゆる企業に対して最適なものだとは断言できません。

アンゾフの成長マトリクスには市場浸透戦略以外にも3つの象限がある他、アンゾフの成長マトリクス以外にもGEビジネススクリーン、プロダクトポートフォリオマネジメントの図、イノベーター理論など、さまざまなフレームワークが存在します。

あらゆる方向から自社の課題点や強み、弱みなどを分析した上でいくつかのフレームワークを検討することにより、自社に合った戦略の方向性が定まってくるでしょう。

しかし、戦略立てに慣れていない企業や考えが行き詰まってしまった企業などが自ら最適な戦略を立てると限界に行き当たってしまうかもしれません。

そのような場合は第三者への経営相談や支援機関を活用するのも一つの手でしょう。
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