人材育成の方法とは?社員の育成イメージに大切なフレームワークを紹介
人材育成で鍵となるのは、事前にイメージを膨らませておくことです。
企業にどのような人材が必要なのか、数年後企業が欲するスキルはなんなのかなど、深く分析を進めていくことで、明確なイメージ・ビジョンを持っておくとより効果的な人材育成につながります。
「分析」といっても、がむしゃらに行えばいいというわけではありません。
スキルマップの作成に始まり「SMARTの法則」や「コルブの経験学習モデル」など、便利なフレームワークに沿って分析を進めていくとより効率的です。
本コラムでは、人材育成を実施するにあたって大切なことやフレームワークの紹介、具体的な分析方法など、人材育成に役立つ情報を記載しています。
人材の成長は、企業の成長にとっても必要不可欠な要素といえるでしょう。
今回ご紹介する内容が企業発展の一助となれば幸いです。

目次
人材育成とは

人材育成とは、従業員を企業の成長や発展に貢献できる人材として育成することです。
従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上すれば、結果的に企業全体の利益を最大化させることが望めるため、あらゆる企業で人材育成が実施されています。
対象として主に挙げられるのは若手社員や管理職です。
人材育成の例として分かりやすいのは社内研修でしょう。
社内研修は入社時や異動、昇格などのタイミングで実施されることが多く、組織全体ではなく一部の人員に対して行われます。
似ている言葉に「人材教育」と「人材開発」がありますが、これらは似て非なるものです。
人材育成と人材教育
人材教育は、人材育成の中にある手段の一つです。
単純にスキルや知識を教えることを意味し、それが主な目的となります。
人材開発と人材育成
人材開発は全従業員を対象とした、従業員一人ひとりの能力やスキルを最大限に発揮できるように支援する取り組みです。
人材育成は「人を育てる」意味で使用されますが、人材開発はその人材が持つ価値をもっと引き出すために開発するという意味合いが強いです。
また、比較的短時間で集中的に行われるという特徴もあります。
人材育成は中〜長期間じっくり育てるイメージに対し、人材開発はそのときの組織に欠けているスキルや能力を短期間で身につけて組織全体の底上げを行うイメージです。
人材育成の課題と解決策とは

「人材育成をする」と言葉にするのは簡単ですが、実際行動に移すとなるとさまざまな課題に行き当たります。
厚生労働省の調査結果(「平成30年版 労働経済の分析」)によると、多くの企業が人材育成に対する課題を抱えていることが分かります。
- 従業員の業務が多忙で、人材育成に充てる時間を確保できない|53.5%
- 上長等の育成能力や指導意識が不足している|45.4%
- 従業員が能力開発に取り組むため不在にしても、その間、他の人が業務を代替できる体制が構築できていない|39.5%
- 育成指導を受ける従業員側の意欲が低い|39.1%
- 社内で人材育成を行う雰囲気がない|30.4%
上記の数字は企業側が感じている人材育成に対する課題点のトップ5です。
多くの企業が、人材育成を実施する側の課題を挙げていることが分かります。
それぞれの詳細と、解決策を紹介します。
人材育成に充てる時間を確保できない
多くの場合、人材育成担当者は他の業務と並行して指導にあたります。
担当者が人材育成にすべての時間を費やせることができれば良いのですが、実際そうすることもできません。
時間に余裕がないときなど業務の優先事項を考えた際、つい育成指導を後回しにしてしまいがちです。
後回しにしていくうちに、学ぶ側が意欲を失ってしまうケースもみられます。
育成指導が滞るという事態を避けるためには、企業側が率先して担当者の業務量を調整することが望ましいです。
担当者へ丸投げするのではなく、企業全体で人材育成のサポートをする姿勢が求められます。
育成能力や指導意識が不足している
担当者のスキルも人材育成にとって大切な要素です。
育成スキルが不足していると場当たり的な指導になったり、その都度適切な対応ができなかったりする可能性が考えられます。
例えば担当者の現状把握能力が不足していた場合、学ぶ側の習熟度を見誤り、現状のレベル以上の業務を任せてしまう……ということがあるかもしれません。
担当者にも相応のスキルが必要です。
担当者が持っておくと良いスキルについては、別の章で紹介します。
協力体制が不十分
人材育成に対しては組織全体が理解を示し、意欲的になる必要があります。
始めに、担当者の通常業務量を減らしたうえでその分を指導業務に充てた方が良いと述べましたが、この体制も周囲の協力がなければ成り立ちません。
「育成は本来の業務ではない」と、人材育成を軽視する管理職も中にはいるようです。
組織は研修に対する協力を呼びかけるだけでなく、現場の状況を把握して無理のない育成計画に理解を示すことも大切です。
育成指導を受ける社員の意欲が低い
組織全体が人材育成に対する意欲を持っていても、育成される側に意欲がなければ期待していた効果は得られません。
少しでも育成対象者の意欲を引き出すために、まず人材育成を行う目的を話しましょう。
「なぜ人材育成を実施するのか」という目的を事前に伝えることで、企業側が対象者へ抱く「こうなってほしい」のイメージを対象者が抱きやすくなります。
企業の持つビジョンや育成の目的をあらかじめ共有しておくことで、対象者側としては学びの姿勢を保ちやすくなるでしょう。
育成対象者の意欲を引き出すには、人材育成の目的と重要性をあらかじめ共有することが大切です。
人材育成を行う雰囲気がない
人材を育てるには、評価の仕組みや学びの支援といった環境づくりも大切です。
企業全体が人材育成に対して無関心であれば対象者の意欲も低下しますし、担当者の業務量や負担が増えるばかりです。
協力的でありさえすれば良いという話でもありません。
人材育成に携わった人たちを適切に評価する機会や成果が可視化されるシステムなどを導入してあげることがおすすめです。
例えば、担当者や対象者のがんばりを客観的に評価するための人事制度が挙げられます。

人材育成で大切なこと

人材育成を行うにあたって大切なことは、下記の4点です。
- 自主性・自発性を養う
- モチベーションを管理する
- 育成担当者のスキルを高める
- 人材育成に関する制度を整える
自主性・自発性を養う
組織強化のために必要とされる人材として、指示されたことをただ消化していく人物よりも、自律型の人材がより多く求められる時代へと変わりつつあります。
近年の顧客・市場ニーズの細分化・複雑化により、マニュアルでは対応できないケースが増えてきているためです。
臨機応変な対応が求められる昨今において、自ら進んで課題解決に向けてアクションができる人材はとても重宝されます。
受け身の体勢ではなく、自主的・自発的に動ける人材を育成しましょう。
自主性・自発性とはそれぞれ「決められている事柄・やるべきことを進んでやる性質」「自身の頭で考えて最適解を導き出し、行動に移せる性質」を意味します。
自主性を養うには、育成対象者に自ら考える機会を多く与えることが有効です。
自発性の場合、あるべき姿や理想とする状態を育成対象者に問いかけ、明確化させることがポイントとなるでしょう。
モチベーションを管理する
モチベーションとは「やる気を起こさせる動機付け」のことです。
対象者や人材育成側のモチベーションがなければ、双方ともに成長にはつながりません。
モチベーションには「内発的」と「外発的」があります。
片方だけに注力するのではなく、内発的なモチベーションに働きかけつつ外発的なモチベーションにも働きかけるのが良いでしょう。
外発的なモチベーション(外発的動機付け)
外発的なモチベーションは、他者から与えられる物質的な賞罰や叱責といった要素のことです。
外発的なモチベーションとして「目標達成で給与が上がる」「結果次第でインセンティブがもらえる」などが分かりやすいかと思います。
感謝の言葉も、ある意味では外発的なモチベーションをもたらすものとされています。
しかし、一般的に外発的動機付けの効果は一時的なものといわれています。
外的に与えられるものだけでは、長期に渡るモチベーション保持が難しいのです。
モチベーションが高い状態を長期間維持するためには、外発的なモチベーションを内発的モチベーションへと変化させるなど、育成対象者の自発的な内発的モチベーションのコントロールがポイントになるでしょう。
内発的なモチベーション(内発的動機付け)
内発的なモチベーションは、他者から与えられるものではなく自分自身の内なる欲求に起因したものです。
仕事への関心、興味、そこから生まれるやりがいや達成感などが内発的なモチベーションとして挙げられます。
「達成報酬が高いから、この仕事を請け負いたい」ということであれば、外発的なモチベーションによるものといえますが「この業種に興味があるから、この仕事を請け負いたい」となれば内発的なモチベーションといえます。
ただし、内発的なモチベーションは意図的に持つことができないため、少し注意が必要です。
関心や興味を持っていたにも関わらず、外的な要因に影響されて失われてしまうこともあります。
モチベーション管理の一環として、内発的動機付けをいかにして行うか、また継続していくか、ということが鍵となるでしょう。
育成担当者のスキルを高める
「育成能力や指導意識が不足している」の章で説明したとおり、人材育成担当者には相応のスキルが求められます。
スキルが不足していると対象者の目標や目的が達成されなかったり、せっかく研修を終えても対象者の成長にあまりつながっていなかったりなど、芳しくない結果となる可能性があるためです。
担当者が持っておくと良いスキルとして「目標管理能力」や「コミュニケーションスキル」、正確な状況把握と判断に必要な「ロジカルシンキング」などが挙げられます。
これらのスキルを担当者が持ち、適切に指導を行うことで対象者のより良い結果につながります。
担当者におすすめなスキルについては、また後ほど紹介します。
人材育成に関する制度を整える
人材育成を安定して行うためには、人材育成に関する制度などを整備することが大切になります。
そうすることで、人材育成の成果を客観的に評価することができたり、人材育成の計画を効率的かつ効果的に実施することが可能になるでしょう。
従業員の能力を正しく評価する「人事評価制度」や社員を定期的に異動させて、さまざまな職種や部署を経験させる制度である「ジョブローテーション制度」などが具体例として挙げられます。
一方で、組織側は各制度を整える努力をするのと同時に「制度が整っていないから人材育成を行えない」という認識を持たない、または持たせないことが大切です。
制度はあくまでも人材育成を支え効果や効率を高めるためのものという認識は忘れず、人材育成の本質は一つひとつの経験やコミュニケーションにあることを意識しましょう。
人材育成担当者にあると良いスキル

人材育成を実施するにあたって、下記のスキルがあればより効果的な結果が望めるでしょう。
- 目標管理能力
- コミュニケーションスキル
- ロジカルシンキング(論理的思考)
- クリティカルシンキング(批判的思考)
対象者の現状把握、目標達成に必要な計画立てなど、かなり重要なスキルとなってきます。各スキルがどのような役割を持つのかを解説します。
目標管理能力
人材育成担当者には、他者が掲げた目標を適切に管理できる能力が求められます。
目標を定めたとしても、途中経過の確認などがしっかりとできていなければ適切なフィードバックができず、結果として効果の高い育成が見込めないかもしれません。
目標管理(=業務目標の進捗や結果を社員自らが管理する)ができる能力として、担当者は人材育成を受けている側が設定した目標の進捗を把握し、期限内までに達成するために必要なプロセスを構築、管理できると良いでしょう。
コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルは人材育成において、対象者の情報を得るためにとても重要なスキルといえるでしょう。
ビジネスにおけるコミュニケーションスキルは、対話を通じて対象者の能力や気力を引き出すことが含まれます。
また、求められるコミュニケーションスキルには分かりやすい説明ができるか、上手に手本を示すことができるかなどの、いわゆる「ティーチング能力」も含まれます。
ただ話を聞くだけのスキルではないことは覚えておくと良いですね。
ロジカルシンキング(論理的思考)
ロジカルシンキング(論理的思考)は物事を筋道立てて考えることで本質を見極める能力です。
人材育成で生じるさまざまな問題を客観的な事実から結果と原因に分解・整理することで本質を見極めます。
そうすることで効率的にPDCAサイクルを回すことができるでしょう。
クリティカルシンキング(批判的思考)
クリティカルシンキング(批判的思考)は本質を見極めるために、常に疑念の目を持っておく思考方法です。
物事や情報を無批判に受け入れず、多角的な視点から検討することで、より正しい論理につなげられます。
本質を見極めるためのスキルとして、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングは合わせて考えておいた方が良いですね。
人材育成を始める前にできること

すぐに人材育成を始めてしまうのは、時間がもったいないかもしれません。
事前に準備できておくこと・確認できることなど情報を集めておき、より効果的な育成計画を立てましょう。
人材育成を実際に始める前にできることとして
- 現状把握を行う
- 将来の自社を想定する
- 人材育成の目標を立てる
- スキルマップを作成する
ことが挙げられます。
現状把握を行う
組織全体の仕事の仕方を把握しておくと良いでしょう。
そこから課題を見つけ必要な人材や欲しいスキルなどを洗い出し、逆算して育成計画を立てることができます。
確保しておいた方がいい情報として、部署・各年次・各階層にいる人員などの基本的な内部情報から、何をやっているのか、生産性の高さなどが挙げられます。
また、従業員の生の声も大事な情報源です。
社内や現場の従業員にヒアリングを行い、今すぐにでも解消したいと感じている課題を把握しましょう。
ここで挙げられた課題が人材育成によって解消できるか否かもこのタイミングで精査しておくと良いですね。
将来の自社を想定する
把握した人員が将来どうなっているのかまでを想定することで「◯年後までにこういったスキルを持つ従業員が◯人必要がある」と把握することができます。
企業全体の現状把握を行うと同時に、現在の人員構成を年齢・スキル・役職ごとに分けて人数を把握しておきましょう。
そこから数年後にどのような構成になっているかを想定することで、人材育成の計画が立てやすくなります。
人材育成の目標を立てる
人材育成を実施するにあたり、目標設定はマストです。
各従業員に目標を設定してもらい、その達成に向けて上司や人材育成担当者が管理・フォローを行います。
ここで立てる目標は「客観的に判断できる指標(数値で表せるものが好ましい)」「企業の利益につながる」であることが大切です。
例えば、企業に関係のない個人的な目標であったり「お客様に満足してもらえるようにがんばる」などのように抽象的なものは避けた方が無難です。
人事や教育担当者は各部署からの目標を取りまとめ、それに合わせて研修やセミナーなどの施策企画に活用すると良いでしょう。
スキルマップを作成する
適切な人材配置を行うために、スキルマップを作成しておくのもおすすめです。
スキルマップとは、各従業員の現時点での業務遂行能力をまとめた一覧表のことです。技能マップや力量表とも呼ばれます。
スキルマップがあることで、業務を遂行する際に必要とされる知識・技術をどの人材が備えているかが一目で確認することができるのです。
組織内の既存スキルを可視化することで、今後必要とされるスキルや足りないものが見えやすくなり、育成計画を立てる際にも役立ちます。
「誰がこの業務に精通しているのか」「この業務で困ったときに誰に聞けばいいのか」などの情報が属人化されず、一目で確認できるため従業員の業務効率化にもつながるでしょう。

スキルマップの作り方

スキルマップの作り方、活用方法の例としては下記をご参考ください。
- スキルマップのフォーマットを決める
- スキルの体系を決める
- 評価基準を決める
- スキルを評価する
スキルマップのフォーマットを決める
スキルマップを作成する際には、まずフォーマットを決定しましょう。
一般的にはExcelシートを使用するケースが多いですが、最近は無料でダウンロードできるテンプレートも多く流通しています。
さまざまなフォーマットを比較して、自社のニーズや目的に合ったものを選ぶようにしましょう。
スキルの体系を決める
フォーマットを決定した後、従業員に身につけてほしいスキルを明確に分類しましょう。
社員に求めるスキルが明確になっていないと、スキルマップの作成やその後のスキル管理がうまくいかなくなるためです。
スキルを分類する際には、業務内容や必要能力・資格などを考慮すると良いでしょう。
またスキルの評価項目は、最終目標のスキルを習得するまでの流れとなる項目を段階的に設定すると、スキルの成長度合いをより正確に把握することができます。
評価基準を決める
スキルの体系を決めた後、評価基準を設定しましょう。
評価基準は、スキルの習熟度を客観的に判断するために重要です。
評価基準は「できる/できない」だけではなく「どの程度できるのか」を目安にした習熟度で設定するのが一般的です。
習熟度に関して「業務を行ううえで:一人でできる/補助が必要」のように、状態を詳細に設定することで、スキルマップ上で人的コストを可視化することができます。
スキルを評価する
スキルマップを作成したら、従業員一人ひとりのスキルを評価します。
評価は、どの程度できるのかといったような階層ごとに記載していくようにしましょう。
A・B・Cの三段階や1~5の五段階評価を設けると定めやすいですね。
注意点として、スキルマップは必ず担当者を決めて管理することが挙げられます。
担当者を決めずに評価を行った場合、公正かつ総合的な評価ができなくなってしまいます。
人材育成の基本的なフレームワーク

人材育成の計画を立てるにあたって、フレームワークに沿って目標を立てたり分析をしたりすることで、取り組みなどを体系的に整理することができます。
それにより、効率良く人材育成の仕組みづくりを進めることができるでしょう。
ただフレームワークを使用する際に理解しておいてほしいことは「フレームワークは万能ではない」ことです。
イレギュラーな問題が発生した際には、都度その問題に即した対処をしなければならないこともあることでしょう。
「フレームワークに合わせて人材育成を進めなければ」と思い込んでしまうと柔軟な対応ができなくなってしまいます。
フレームワークはあくまでも思考・分析の補助として捉えておくのが良いですね。
この章では人材育成に使えるフレームワークを6種類紹介しています。
SMARTの法則
SMARTの法則は目標設定の際に役立ちます。
各アルファベットは目標を達成し成功をつかむための重要事項の頭文字です。
- Specific:具体的かつ分かりやすいもの
- Measurable:計測可能、数字になっているもの
- Achievable:達成可能なもの
- Relevant:関連性の高いもの
- Time-bound:期限が明確なもの
上記の5項目に沿って目標設定を行うことで、目標達成の精度を高めてくれる役割を持っています。人材育成の目標設定と、達成のイメージを明確することに役立てることができます。
ギャップ分析
ギャップ分析は課題を洗い出す際に用いるのがおすすめです。
理想の状態と現状のギャップ(食い違い)を解決するため、やるべきことを洗い出します。
人の持つ能力を開発することで、目指すべき状態と現状を埋めることができます。
例えば、英語でのコミュニケーションが取れるようになりたいのであれば、その目標と現状との違いを埋める必要があります。
しかし、現状では英単語にも不安があり、英語で会話をすることができません。そのため英語を学ぶ必要がある、ではどう学ぶのか? 学習塾に通うのか、自主学習で進めるのかなど、ギャップを埋めるための方法があらゆる視点から想定されるでしょう。
このようにあるべき姿(目標)と現状とのギャップを明らかにし、そのギャップをどう埋めていくかを深く分析するのがギャップ分析であり、課題の洗い出しに最適な方法といえるでしょう。
コルブの経験学習モデル
コルブの経験学習モデルを意識すると、より質の高い学びにつながるでしょう。
コルブの経験学習モデルとは「経験の中から学習する一連の流れは、実は4つのプロセスに分けられるものだ」とする学習理論のことです。
人材育成における古典的な考え方ではありますが、現代においてもよく参考とされています。
4つのプロセスは「具体的経験」「内省的観察」「抽象的概念」「能動的実験」です。
この4つのサイクルを繰り返すことで、経験や学習を成長へ活かすことができるとされています。
- 具体的経験:自ら考える、目で見て確認する など
- 内省的観察:自分の経験を多角的な視点、俯瞰的な立場で振り返る
- 抽象的概念化:経験し、得た結果をほかのケースでも応用できるよう概念化、教訓化する
- 能動的実験:3で抽出した教訓を実践する
ジャンルや業種などの違う場面においても活用できるよう、経験で培ったものを一般化し、さらにそれを実践してみることで初めて自己の経験が学びとなるわけです。
70:20:10の法則(ロミンガーの法則)
人材の成長に必要な「経験・薫陶・研修」はそれぞれ「70:20:10」の割合が有効である、と提唱しているのが70:20:10の法則(ロミンガーの法則)です。
アメリカの人事コンサルタント会社が、リーダーシップなどを発揮するために有効だった要素の調査を行った結果「経験:70%、薫陶:20%、研修:10%」との結果になったことから、提唱されるようになりました。
ここで大切なのはそれぞれのバランスです。
経験をたくさん積ませれば良いという話ではなく、薫陶(上司からの指導、フィードバックなど)」や研修などの教育がなければ、7割の成長で止まってしまうでしょう。
リーダーシップを必要とする管理職やリーダー育成の際には、この70:20:10の法則を参考に育成を実施することをおすすめします。
HPI(Human Performance Improvement)
HPIは成果達成までのプロセスを明確化し、企業の持つ資源(人材、情報など)をフル活用したうえで解決まで導くまでの流れのことです。
この流れを6ステップで構成したものをHPIモデルといいます。
人材育成の全体図を捉えたうえで、俯瞰的な視点から要点を抑えることができるため、より良い育成成果が期待できるでしょう。
6つのステップは下記の通りです。
- ビジネスの分析
- パフォーマンスの分析
- 原因の分析
- ソリューション(解決策)の選択
- ソリューションの導入/実施
- 成果の評価
「どんな研修をしようか」と話し始めるのではなく、まずビジネス分析でゴールを設定することから始めましょう。
次にゴールに至るために必要なスキルやパフォーマンスと、現状とのギャップを導きます。
ギャップが生まれてしまう原因の分析を次に行います。組織構造に課題があるのか、資源や業務プロセスに見直すべきところがあるのかなど、組織を俯瞰的に見て課題がないのかを分析しましょう。
課題のソリューション(解決策)を決めます。ここでは教育や報酬アップなどさまざまな項目が候補に上がるでしょう。
挙げられたソリューションを実施し、結果の評価を行います。
実際に導入した後のパフォーマンスと、あらかじめ設定していたゴールとの間にギャップがないかを確認して、あった場合は原因分析をしていきましょう。
このサイクルを繰り返すことで最初に設定したゴールに近づくことができます。
カッツモデル
カッツモデルを人材育成に取り入れることで、組織に必要な人材の洗い出しやスキルの明確化が期待できます。
そのほか、人材配置の見直しや社員のスキルアップ、動機付けにも役立ちます。
カッツモデルとはマネジメント層に必要とされる能力を階層別・スキル別に分け、明示した理論のことです。
このモデルを利用することで「トップマネジメントには各スキルのこういった部分が足りないから、それを補うような研修を行う」など、スキル獲得が見込める研修準備がやりやすくなるでしょう。
階層
- トップマネジメント:(経営者):社長、CEO など
- ミドルマネジメント:(管理者):部長、課長 など
- ロワーマネジメント(監督者):係長、現場監督 など
スキル
- テクニカルスキル(専門能力):仕事の遂行スキル、知識 など
- ヒューマンスキル(対人能力):コミュニケーション能力全般
- コンセプチュアルスキル(概念化能力):論理的思考、俯瞰力 など
テクニカルスキルは現場に即したものが多く、サービスの提案力なども含まれます。
ヒューマンスキルには対人関係で発揮されるスキル全般が含まれます。
リーダーシップやプレゼン力なども、ヒューマンスキルの位置付けです。
コンセプチュアルスキルも細分化してみるととても多く、このスキルが高い人は「ロジカルシンキング(論理的思考)」や「ラテラルシンキング(水平思考)」、探究心、柔軟性などかなり多角的な視点と思考力を保持しているとされています。
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役職別に押さえておきたい人材育成のポイント

人材育成の主な対象者としては「新入社員」「中堅社員」「管理職」が挙げられます。
それぞれに気をつけておくと良いポイントがあるため、先述のワークフレームと一緒に把握しておけるとなお良いですね。
新入社員
新入社員を育成する場合、早期退職の防止を意識しながら取り組むと良いでしょう。
指導においては、きちんと新入社員の目線に立つことが挙げられます。
最近の新入社員の傾向などをあらかじめ調査しておくと良いですね。
一般社団法人日本経済青年協議会などが新入社員に対して調査を行っているため、その調査結果などを参考にすると良いでしょう。
また、新入社員一人に対して複数人担当者をつけることも、より良い新人育成に効果的です。
一人だけの場合、フィードバックの視点も偏りがちになり、新人のスキルや考え方も偏ってしまう可能性があります。
複数の担当者をつけることでさまざまな視点から新入社員を見ることができ、一人では気づきにくかった部分が見えてくるでしょう。
一対一という閉鎖的なコミュニケーションではなく、オープンな環境で指導することで柔軟な対応ができるようになります。
それに加え、新入社員のコミュニケーション機会が増えることも利点だといえます。
中堅社員
中堅社員の場合、数年同じ会社にいるということもあり、マンネリ化してモチベーションが下がりかねません。
改めてキャリアプランを明確にしてあげて、新たなスキルを身に付けてもらうと良いでしょう。
この際、企業側が対象者に求めている役割を明文化し、本人がしっかりと認識しておくのがベストです。
管理職になる前にマネジメントの経験が積めるようにプロジェクトを任せることも手段の一つです。
管理職
管理職は経営理念に基づいた行動を行い、社員が目標達成できるようマネジメントする役割を担っています。
そのためには、経営者の視点をもって物事を進める能力や、判断力や経営スキルが求められるでしょう。
これらの能力やスキルを伸ばすためには、組織論や経営論の知識を習得できる研修制度を整えることが有効です。
部下の育成には幅広い能力やスキルが求められるため、必要に応じて社外研修を実施することも検討しておくのが良いですね。
人材育成を始める前にまず分析を

人材育成の最終的な目標は企業全体の利益を高めるところにあります。
企業全体を俯瞰した状態で、育成計画を立てる方が効果的な施策になるでしょう。
表面的な部分だけを見るのではなく、原因の分析を行うことで本質を探すところから始めましょう。
深い分析を行う際には「HPI」などのフレームワークを利用することがおすすめです。
分析を始める前にスキルマップを作成し、従業員の持つスキルなどの「見える化・可視化」を行っておくと、さらに効率良く分析・育成を進めることができるでしょう。


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