シェア拡大で売上アップ!戦略設計に必要なフレームワークを紹介
シェア拡大を行うためには市場や顧客だけでなく、他社や自社を深く分析することが鍵となります。
とはいったものの幅が広く、何から始めればいいのか分からないという方もいるのではないでしょうか。
何も分からないまま手探りで分析を始めても、結局シェア拡大戦略に結びつかず、時間の無駄となるかもしれません。
シェア拡大の戦略を立てる場合には、フレームワークの利用がおすすめです。
フレームワークは分析方法のガイドラインのようなもので、分析の指針となってくれます。
このコラムでは、4つのフレームワークを紹介しています。
シェア拡大についての基本も解説していますので、ぜひご参考ください。

目次
マーケット(市場)シェアとは

マーケット(市場)シェアとは、市場占有率のこと。
対象の市場で自分たちが提供している商品・サービスが、どれくらいの売上を占めているかを表した割合のことです。
マーケットシェアを算出する際は、商品やサービスの売上金額を使用するのが一般的でしょう。
実際のマーケットシェアとクープマン目標値(※)を参照することで、自社や競合他社が市場でどのような立ち位置にいるかを把握することができます。
例えば、ある市場全体の総売上高が2,000万円で、そのうち自社の売上高が500万円だとすると、自社のその市場におけるマーケットシェアは25%ということになります。
また、マーケットシェアは大きく2種類に分けることができます。
※ マーケットシェアにおける目標値。対象市場における企業や製品・商品の市場におけるポジショニング(位置付け)
絶対的市場シェア率
市場全体の売上に対し、自分たちの商品・サービス売上がどれくらいの割合を占めているかを示したものが「絶対的市場シェア率」です。
市場全体の定義をどう設定するかで見方を変えることができるため、調査目的に合わせて活用できるという特徴があります。
例えば、市場を「清涼飲料水」と少し広く設定したり「オレンジジュース」などのように狭めたりすることも可能です。
もちろん「飲料品」と大きな括りで設定しても活用できます。
自社が提供する商品やサービスに限らず、ペルソナに合わせて地域や年齢などを限定した地域からマーケットシェアを計算することも可能です。
絶対的市場シェア率は
自社の商品・サービスの売上 ÷ 市場全体の売上
で算出されます。
相対的市場シェア率
相対的市場シェア率は、競合他社のシェア率を対象に算出される数値です。
自社が全体のどこに位置するかを確認する絶対的市場シェア率に対し、相対的市場シェア率は自社と、他社とを比較する際によく用いられます。
特に、市場におけるシェア1位の企業と比較する際に活用されることが多いです。
相対的市場シェア率 = 自社の商品・サービスの絶対的市場シェア率 ÷ 競合他社の商品・サービスの絶対的市場シェア率
で算出されます。
例えば、自社のA商品における絶対的市場シェア率が12%、B商品(シェア1位)の絶対的市場シェア率が60%である場合、A商品の相対的市場シェア率は20%になります。
シェア拡大とは

対象の市場で自社の占有率を上げることを「シェア拡大」といいます。
市場の独占は「独占禁止法」で禁止されています。
これはある企業が市場を独占してしまうと、自分たちの利潤が多くなるように一方的に価格を決定してしまうこと(独占価格)があり、価格が上昇することがあるためです。
市場のシェア拡大をする意味として、シェアを拡大するほど価格のコントロールがしやすくなり、自社収益率の最大化を狙うことができるためといえるでしょう。
マーケットシェアを拡大することで、自社に優位な条件で取り引きが締結しやすくなるとされています。さらにブランドの信頼性向上にもつながるため、より大きなマーケティング効果が期待できるでしょう。

マーケットシェアの拡大戦略で大切なこと

マーケットシェアを拡大するにあたって大切なことは下記の2点です。
- 市場決め
- バリュープロポジションの把握
詳しく説明していきます。
市場決め
どの市場でシェアを拡大していくのかを明確にしましょう。
業界全体で、などのように大雑把に設定してしまうと、自社のポジションを正しく把握することが難しくなります。
その結果、適切な戦略が立てられないということになりかねません。
マーケットシェアは商品だけでなく、ターゲットとなる性別や年齢層、地域などによって変化します。市場を明確にすることで自社分析だけでなく、他社や顧客の分析がしやすくなる利点もあります。
マーケットシェアを拡大すると決めたら、その次にどの市場にするのかを決めることがおすすめです。
バリュープロポジションの把握
市場決めとともにバリュープロポジションの把握もしておくと良いかもしれません。
「バリュープロポジション」とは、自社で提供できるサービスのうちユーザーのニーズが高く、かつ競合他社が提供できない自社だけの強みです。
バリュープロポジションは戦略を立てるうえで、とても有用だといえます。
戦略に活用することで、競合他社との差別化を図ることが可能です。
市場内でシェア率を競い合う場合、アピールポイントが他社と被ることもあるでしょう。
その際、他社と一線を画すような強みがあれば顧客から選んでもらえる可能性は高まります。
ただ、自社の強みと顧客のニーズとがマッチしているかどうかは確認しておいた方が良いでしょう。
バリュープロポジションの前提は「顧客のニーズが高い」「ユーザーが求めているもの」です。
たとえ他社にはない強みだったとしても、顧客のニーズを満たしていないものであれば当然売れません。
商品やサービスの売上を伸ばしシェア拡大を目指すのであれば、前提をしっかりと理解したうえでバリュープロポジションを把握することをおすすめします。
バリュープロポジションの分析手順
バリュープロポジションを分析する際には「3C分析」を活用するのが良いでしょう。
3C分析とは、自社の戦略を決めるための分析方法のことです。
Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3点から分析し、情報を整理することで戦略設計に役立てることができます。
一つずつ見ていきましょう。
市場・顧客のニーズを分析する
市場や顧客の実際の意見を聞いたものを材料に分析を進めます。
企業側の経験則や感覚で分析を行ってしまうとどこかでズレが生じたり、そもそもの前提から誤っていたりする可能性があります。
誤った分析をしてしまうと後々立てる戦略にも穴があったり、そもそも前提として適切な戦略でなかったりする場合が想定されるでしょう。
検索エンジンの検索結果やサジェスト、SNSで話題になっていることなども貴重な情報です。
もしできるのであれば、実際に顧客へアンケートを取ってみるのも良いでしょう。
競合を分析する
競合の分析では、ただ競合のサービス内容や価格などを調べるだけでなく「顧客がなぜ、競合他社の商品(またはサービス)を利用しているのか」が鍵となります。
自社ではなく他社を選んでいる理由が明らかとなれば、そこが自社に足りないものと解釈できるため、そこを補うような戦略も視野に入るでしょう。
自社よりも競合他社の方がより高いシェア率を維持しているのであれば、経営戦略についてリサーチすることもおすすめです。
自社を分析する
自社の商品がどのような価値を提供できるのかを改めて分析します。
顧客のニーズと自社製品が提供できる価値がマッチしているのか、競合他社にはない強みで顧客のニーズを満たすことができるのかなど、の観点で分析を行いましょう。

市場拡大とマーケットシェア拡大に役立つフレームワーク4選

マーケットシェア拡大の戦略を立てる際におすすめなフレームワーク(枠組み)は「アンゾフの成長マトリックス」「GEビジネススクリーン」「プロダクトポートフォリオマネジメントの図」「イノベーター理論」の4つです。
フレームワークとは、経営戦略を立てるために必要な現状分析の方法を示すガイドラインのようなものです。
各フレームワークでは、それぞれ視点や特徴などが異なります。
そのため一つのフレームワークで分析を行うよりも、複数のフレームワークを組み合わせて分析する方がよりおすすめです。
アンゾフの成長マトリクス

アンゾフの成長マトリクスは、製品・市場の観点から分析するフレームワークです。
縦軸に「製品」と横軸に「市場」を取り、それぞれの軸を「既存」「新規」の2区分を設けることで、企業の成長戦略を4象限に分類しています。
- 新規市場×新規製品投入
- 既存市場×新規製品
- 既存市場×既存製品
- 既存製品×新規市場
事業拡大には上記の4種類があるとして、それぞれのリスクと可能性を提示したものがアンゾフの成長マトリクスです。
新規市場×新規製品投入
新しい市場に新しい製品・サービスを投入する戦略で「多角化戦略」ともいわれます。
下記4種類の分類があります。
- 水平型多角化:既存市場と隣接した市場×既存技術を活かした新製品
- 垂直型多角化:既存市場の川上・川下の市場×既存技術を活かした新製品
- 集中型多角化:これまでとまったく違う新規市場×既存技術を活かした新製品
- 集成型多角化:これまでとまったく違う新規市場×既存技術と関連のない新製品
新規市場への挑戦は企業の成長を促す側面もありますし、新規製品の開発が企業の技術力向上につながることもあるでしょう。
しかし一方で、新製品の開発には多額の投資と時間が必要です。
さらに新規市場の調査やマーケティング活動なども行うことも視野に入れると、かなりコストがかかることが想定されます。
新規市場への進出が既存市場へ影響を及ぼす可能性も考えられます。
そのため、一般的にリスクが高い戦略とされています。
新規市場進出や新製品開発による恩恵もありますが、大きなリスクも伴う戦略が「新規市場×新規製品投入」です。
既存市場×新規製品
既存市場に新しい製品・サービスを投入する戦略で「新製品開発戦略」とも呼ばれています。
既存市場の成長率が低い場合でも、新製品の開発により新たな成長機会を創出できる可能性を秘めています。
すでに顧客理解が深まっているため、顧客のニーズに沿った新しい商品・サービスの提供がしやすいのも特徴です。
そのため比較的リスクが小さい戦略といえるでしょう。
既存市場×既存製品
既存市場に既存の製品を浸透させていく戦略のことで「市場浸透戦略」ともいいます。
市場浸透戦略は市場の成長率が低い場合でも、既存製品の認知度や利用率を高めることで成長を促すことができる場合があります。
既存製品の販売促進により顧客の購買頻度や購買量などを増やすことも可能です。
既存市場における自社既存製品の認知度を浸透させていくためにできることとして、定期的なキャンペーンや丁寧なアフターサービスの徹底が挙げられます。
SNSでの宣伝方法を変更してみたり、商品の割引キャンペーンを行ったりすることが実際の行動として考えられるでしょう。
既存製品×新規市場
既存製品をこれまでと異なる市場に売り出す戦略で「新市場開拓戦略」といわれることもあります。
企業の事業展開を拡大し、新たな顧客層を獲得することにつながります。
新製品を開発するコストが比較的少なくて済むうえに、販路を拡大するだけであればリスクも少ない戦略といえるでしょう。
一方、新規市場の顧客が既存市場とは異なる価値観などを持っていた場合、新規市場への適応は少し難しいかもしれません。
例えば、今まで女性向けの商品・サービスを提供していた企業が男性向けのサービスを出すようになったり、国内市場から海外市場へ進出することも「新市場開拓戦略」にあてはまります。
関連記事:市場浸透戦略を用いた市場シェア拡大の方法とは。アンゾフの成長マトリクスの事例を交えて紹介
GEビジネススクリーン

GEビジネススクリーンは9つの象限により、各事業の魅力度や地位を客観的に評価し、自社の成長戦略を策定することが可能なフレームワークです。
「業界の魅力」「ビジネスユニットの競争力」2つの指標をそれぞれ「高、中、低」に分類し、掛け合わせることで9つに分類します。
「この事業は魅力があって、競争力もある」となんとなくイメージしていた事業の強さを9種類のいずれかにマッピングすることで、客観的に評価できるようになります。
それにより、その事業の優先順位と、どの程度力を入れるべきか否かが明確になります。
例えば、業界の魅力そのものが低いうえに自社の強みも特筆すべきところがない場合は強化を進めたり競合他社と争う必要がないため「撤退」の項目に当てはまります。
プロダクトポートフォリオマネジメントの図

「プロダクトポートフォリオマネジメントの図」は企業が展開する複数の事業や製品を、市場成長率(市場規模が前年比べてどれくらい大きくなったかの割合)と相対マーケットシェア(NO.1シェアの企業に対するシェア)の2つの軸で4象限にマッピングしたものです。
市場成長率が高く、相対的マーケットシェアが低いと思われる事業は「クエスチョンマーク(問題児)」、市場成長率と相対的マーケットシェアが両方とも高いと見込まれるものは「スター(花形)」に分類されます。
残りの2つを含む4象限の特徴は下記のとおりです。
クエスチョンマーク(問題児)(市場成長率:高、相対的マーケットシェア:低)
市場自体は伸びているのに、競合トップ企業に対する自社シェアが低い状態です。
この場合プロダクトそのものに課題があるのかトップ企業の市場支配力が強いのかなど、あらゆる原因が考えられます。
シェアが低いという状態を把握し、適切な対策を講じることがここでは大切になってきます。
スター(花形)(市場成長率:高、相対的マーケットシェア:高)
市場も順調に成長してるうえに自社シェアも高く、今後の成長が期待できます。
そのため、スターと判断された事業は優先的に投資をした方が良いでしょう。
金のなる木(市場成長率:低、相対的マーケットシェア:高)
すでに自社シェアと収益性の高い事業は「金のなる木」に当てはまります。
スターとの違いは、市場の成長が今後あまり見込めないところです。
しかしこれは悪いことではなく、市場成長率が成熟期に入り安定することを示しています。
安定して収益を得ることのできる「柱」となる事業です。
大事なのは成熟期をできるだけ伸ばす施策に力を入れることです。
安定した時期を引き伸ばし、コンスタントに得た収益やナレッジを新規事業やスターに投資することが良い流れといえます。
負け犬(市場成長率:低、相対的マーケットシェア:低)
負け犬に分類される事業はいわゆる「赤字事業」です。
市場も成長せず、さらに市場内でのシェアも低い事業とされています。
赤字事業だからといって、必ずしも撤退すべきというわけではありません。
その事業単体でみれば赤字でも、他のプロダクトを補完するような役割を持っている場合は、撤退しない方が良いでしょう。
事業単体で見るのではなく全体的な製品戦略を踏まえたうえでの判断が、企業全体の利益につながります。
イノベーター理論
イノベーター理論は新商品や新しいサービスをマーケティングするうえで押さえておきたい理論です。
普及学とも呼ばれるイノベーター理論では、消費者を初期〜後期間の時間軸によって5種類に分類しています。
新製品や新しいサービスはその5種類の異なるチャネルを介し、時間をかけて社会に伝わっていくとするのが「イノベーター理論」です。
消費者は「イノベーター(革新的採用者)」「アーリーアダプター(初期採用者)」「アーリーマジョリティ(前期追随者)」「レイトマジョリティ(後期追従者)」「ラガード(遅滞者)」の5種に分けられます。
各チャネルが全体に占める割合は下記のとおりです。
- イノベーター:2.5%
- アーリーアダプター:13.5%
- アーリーマジョリティ:34%
- レイトマジョリティ:34%
- ラガード:16%
これら5種類のユーザーはそれぞれ異なる特徴があるため、どこのユーザーを獲得したいかによってアプローチの方法も変わってきます。
イノベーター:革新的採用者
新しく斬新な製品・サービスが現れたときにいち早く飛びつく人たちを「イノベーター(革新的採用者)」と呼びます。
市場全体の2.5%を占めているイノベーターは情報感度が高く、新しい商品などを積極的に採用する積極性を持っています。
「新しい」点に価値を見出している方が多いため、価格や商品・サービスなどの細かなメリットなどにはあまり興味・関心を示さないのも特徴です。
これらを踏まえると、イノベーターに響く訴求ポイントとして「革新的」「新技術」「最先端」など、新しさを全面に出したものが挙げられます。
アーリーアダプター:初期採用層
アーリーアダプターは具体的なメリットを考えたうえで「良い」と判断したものを購入する傾向のある層です。
イノベーターは直感で購入している側面が強いですが、アーリーアダプターはイノベーターほど急進的ではなく、トレンドに敏感でありながら常に情報を収集し、分析・判断を行います。
また、アーリーアダプターは周囲の人間に対して商品の口コミや評価を伝える性質があるとされています。
アーリーアダプター以降のタイプにとって、口コミや評価は重要な訴求ポイントになるため、かなり大きな影響力を持っていると考えられます。
これらを踏まえると、対アーリーアダプターへの訴求ポイントとしては新しさや革新的といったものに加え「ベネフィット」「従来の品と比較して優れている点」などが挙げられるでしょう。
また、イノベーター理論においてはアーリーアダプターに受け入れられるかどうかが、新商品やサービスが市場に浸透するか否かの鍵になるとされています。
アーリーマジョリティ:初期多数派
アーリーマジョリティは新しい商品やサービスを購入することに比較的慎重な人たちとされています。
ただ「流行に乗り遅れたくない」という気持ちは持っているため、平均より早く新しいものを取り入れる傾向にあります。
全体のうち占める割合としてはレイトマジョリティと並ぶ34%です。
先述のアーリーアダプターからの影響を強く受けやすい方たちでもあります。
レイトマジョリティ:後期多数派
レイトマジョリティは保守的であり、新しい商品やサービスに対して懐疑的である人たちで、アーリーマジョリティと同じく全体の34%を占めます。
それほど新しいものに興味があるわけではなく、かつ失敗することを好みません。
そのため社会でその商品やサービスなどを利用する人が過半数を超え「受け入れられている」と判断した段階で、ようやく自分もそれらの商品などを利用し始めます。
ラガード:遅滞層
ラガードはもっとも保守的な人たちとされています。
遅滞層とも呼ばれるラガードは、そもそも「新しいもの」に興味関心がないだけではなく、むしろ「受け入れ難い」とまで感じています。
周囲が使っている使っていないは関係なく、アーリーアダプターのような大きな影響力を持つ人の意見などにも影響されません。
ラガードは攻略が難しいため、マーケティングの対象から外されることもあります。
シェア拡大の戦略を立てるときは自社・他社・顧客を深く分析しよう

シェア拡大は企業にとって、収益を増やすための重要な戦略です。
シェア拡大を図るためには自社の状況や目的を明確にし、適切な戦略を策定することが重要となります。
アンゾフの成長マトリックス、GEビジネススクリーン、プロダクトポートフォリオマネジメントの図、イノベーター理論など、さまざまなフレームワークを活用することで自社の事業や製品の将来性や競争力を把握し、戦略を設計することができます。
さらに新規顧客の獲得、既存顧客の囲い込み、競合他社との差別化などの施策を組み合わせることで、効果的なシェア拡大を図ることができます。
これらのフレームワークや施策を参考にしながら、自社にとって最適なシェア拡大戦略を策定しましょう。


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